薩摩の文化(転載)

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    久々に、地元の新聞に載っている日曜随想リレー「朝の文箱」からの転載です。

     

     

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     薩摩の伝統文化である示現流、薩摩琵琶、天吹(てんぷく)を見せていただいた。たった半日ではあったが、解説や資料から、これらが単なる剣術や音楽にとどまらない人間教育の要素を多分に含んでいることが伝わってきて、深く興味をひかれた。

     まずは示現流資料館にて、示現流の歴史や練習法を学んだ。周知のことだが、示現流ではとにかく速く刀を振りぬくことを修練する。その結果、薩摩の武士は、すべての剣術の中で最も速いといわれる攻撃力を得た。

     一方で、鍔と鞘とを、紐や針金を使って結び、それを解かなくては抜刀できないようにもしていた。人を殺める最速の剣術を身につけるからこそ、むやみに人を傷つけることのないよう自らを律していく、との考え方を僕は素晴らしいと思った。

     次に鹿児島神社にて、琵琶会を開いていただいた。初めて拝聴する薩摩琵琶の調べの中、歌詞の意味に思いを巡らせた。歌詞には自分こそがという矜持があり、自戒やたゆまぬ努力を勧め、敵方であろうとも情けをかけ、「もののあはれ」を解する挿話がそこにはあった。

     薩摩の幼子たちは、稽古で繰り返し歌詞を歌う中から、その意味を体に染み込ませ、情緒や命のはかなさを理解していったのだろう。

     続いて聴いた天吹は優しい音色で、神社の緑に溶け込むように柔らかいものだった。その音色を奏でる息遣いは示現流の呼吸法にも通じているとのことだが、長息を吐くことに、座禅のような心を鎮める効果もありそうだ。

     今回、薩摩の伝統文化に触れる機会を得て、これらの人間教育としての奥深さに感銘を受けた。特に一人の人間に一点集中型の圧倒的な突破力と、相手を思いやる人間性をともに育てていこうとする工夫に、僕はたいへんな魅力を感じた。そして、これは現代にも通用する教育ではないか、と思った。

     「テクノロジーだけでは足りない。リベラルアーツや人間性と結びついたテクノロジーこそが、我々の心を震わせるのだ」。スティーブ・ジョブスはそう語ったが、この言葉は「テクノロジー」だけでなく、知識、技術、身体能力、地位、権力、お金など、何にでも置き換えて使われるべきだと僕は思う。

     努力を重ねて高いレベルの何かを手にしたときに、それをどう使うのか。使い方を方向づけるのが「人間性」だ。薩摩の先人たちは、示現流、薩摩琵琶、天吹など、独自の文化を通じて、人間性をも高めてきた。だからこそ幕末、多くの偉人を輩出し、強国となれたのではないだろうか。

     人間性というのは、学力テストの点数のように、明確な測定基準がない。それゆえに、現代の学校教育では重視されていないが、養成に20年、30年かかる代わりに、国を支える底力となるものだ。

     「国家百年の計は教育にあり」という。だが、人間性教育を重視してきた鹿児島にあっても、その文化の伝承が力強いものとは決していえなくなってきている現実に、強い危機感を抱く。薩摩の文化の価値を改めて見直し、日本のために受け継ぐべきだ。よそ者ながら、僕もその一助となりたい。

     

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    大岩根 尚(おおいわね ひさし)氏

    三島村地球科学研究専門職員。1982年宮崎市生まれ。博士(環境学)。元南極観測隊員。2013年10月、専門職員に採用され、同村の日本ジオパーク認定(15年9月)に尽力した。

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     転載元:南日本新聞朝刊 9月18日掲載分

     

     

     

    故郷のことを改めて文章にして褒められるとこそばゆいですね。

     

    天吹や薩摩琵琶は島津忠良の時代には既に重きを置かれていたそうです。島津忠良は戦国の世に生まれた島津家中興の祖。日新公として今も親しまれています。その日新公が若者のためにと5年余りの歳月をかけて完成させた47首の「日新公いろは歌」と呼ばれる一連の歌があります。

    その中の何首かは鹿児島県職員への訓示として受け継がれてきたと聞きました。例えば、「と」。

    「科(とが)ありて人を斬るとも軽くすな いかす刀もただ一つなり」 

     

    こういう伝統があることは有難いものです。

     

     

     

     


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